マーロンブランドの人生に学ぶ

 事実は小説より奇なりという。現実の世界のほうがはるかに面白いから、ハリウッドも現実に起きたことからネタを拾っている。実話ほど実話とは思えない波乱万丈に満ちているのだ。しかし、それは一部の吹っ切った人が起こしているのも事実だ。大衆には触れることがない世界。だから映画でそれを味わって非日常を体験する。

小説より面白い現実を生きている人の日常は、普通の人にとっては非日常だ。どちらがいいとか悪いとかいう話ではない。普通の人がやらないことをする人は、その人にとって譲れない信念がある。それがモチベーションとなり、常識という殻を破る力になる。そういう人間は近くにいたら、強烈な個性のために、熱狂するか不愉快になるだろう。
織田信長も、今となっては英雄だが、当時の同世代人にとっては第六天魔王と恐れられた。それはそうだ。比叡山を焼き討ちしたり、今でいう大量虐殺者なのだから、神をも恐れぬ所業に度肝を抜かれただろう。近くにいたら迷惑だが、時代が下がって、遠くなると格好いいとなる。
世間に自分を合わせようとするのではなく、自分に世間を合わせようとする。いまの世界はおかしい。そんな世界は納得いかないと欲する人間が時代を創る。またそういう人間がスターになる。ハリウッドスターのなかで、飛び切り反骨心があったマーロンブランドの人生は格好いい。
今だから格好いいといえるが、それが確立するまではダメな人とか落ち目だとか言われてきた。真面目脳であると、一つ一つ評価を積み重ねていかないとダメで、一回でも落とされてしまったらもうダメだと考えてしまう。本当は、ダメなところがないと逆に面白くないことに気が付かない。紆余曲折があるからドラマになるのだ。
世間とは面白いもので、突き抜けて看板ができてしまうと、どんな失態も逆に物語の一部になってしまう。「ああ、やっぱり彼らしい」といった具合に。それが魅力となる。


何も汚点がないというのは、何も利点がないというのと同じだ。
「いい人、いい人、どうでもいい人」なのだ。世間では、何も問題がなく素晴らしいように見える人もいるだろう。それは汚点が見えていないか、もしくは作られた人物である。世間を誘導するためには、カリスマを作ることが有効だからだ。
作られたカリスマではない、本物のカリスマにしても、その魂に火をつける人がいなければスターも生まれない。人は人に影響されて変わっていく。マイケルジャクソンは、マーロンブランドをファーザー、エリザベステーラーをマザーと呼び、慕っていた。魂の親子だ。
ファーザーと呼ばれたマーロンブランドの人生は興味深い。自分たちの世代では、ゴッドファーザーのイメージが強いが、彼がT-シャツやジーパン、革ジャン、バイクといったアメリカ文化を創り出したのだ。ジェームスディーンもプレスリーもビートルズも、とにかくすべての人がマーロンブランドに多大な影響を受けた。それくらいのスターだった。
彼は幼いころから反骨心があって、当時は黒人差別が当然の時代に、平気で一緒に遊んでいて、教師ににらまれたりしていた。その性格はずっと続き、数度の結婚で選んだ奥さんも有色人種だった。
ジェームスディーンの出世作も、元はマーロンブランドが出演するはずだった。彼がお世話になってきた監督だったが、納得できないことがあって蹴ったために、ジェームスディーンのチャンスへと繋がった。信念を通せば、世界はうまく回るようになっている。蹴った理由も、彼が仲間を売ったからというのだからシビレル。
父親はどうしようもない人だったが、金に困った父のためにと、それまでは厳選して出演作を選んでいたのだが、役を選ばず出演して評価を落とした。因縁の作用だ。因縁は足を引っ張る仕事をする。それに負けていたら大スターではなく、ただのスターで終わっていた。
ゴッドファーザーの企画を知ったとき、制作側からは落ち目だと嫌われていたが、自分しかその役はいないと、歯を抜いたり役作りをして、オーディションにまで出て見事役を射止めた。ゴッドファーザーで一気にスターダムに復帰するが、マーロンブランドらしいのが同時に出演した映画ラストタンゴ・イン・パリがポルノ映画と酷評されたことだ。共演した女優の人生もこの映画に出演してからめちゃくちゃになり、いったいなぜあんな駄作を作ったのだと謎を振りまいた。ゴッドファーザーで期待が高まり、注目が集まっている時期に、あえて自ら貶めるかのように。同時代に理解されるのを拒むようでもある。
ちなみに、ゴッドファーザーで、無名だったアルパチーノがスターになり、アカデミー賞も得た。しかし、ハリウッドはアメリカ先住民への人種差別があると、マーロンブランドは受賞拒否した。アカデミー賞を欲しがる人はいても、人種差別を理由に拒否する人は彼しかいない。恰好いいではないか。そのせいもあって、それ以降は西部劇はあまり制作されなくなった。
マーロンブランドは、自分だけの王国を作ろうと無人島を購入していた。理想の場所を作るためには金がいくらあっても足りない。そのための役者の仕事だと割り切って、一本でいくらお金を稼げるかに挑戦していった。ゴッドファーザーが当たったために、次回作もとお願いに行くも高額すぎて断念。わずかばかりの使用でも高額すぎて、脚本を大幅に変更せざるを得なかった。
彼が出演したスーパーマンでは、世界一ギャラの高い俳優としてギネス記録を残した。しかも、出演時間もわずかしかない。出来るだけ少ない時間で高額収入を目指したのだ。そうした金を自らの王国のために注ぎ込んだ。ハリウッドは、そうした信念ある人間たちがいるから魅力がある。もはや、彼の人生が一本の映画だ。彼の心にあったものが彼を形作った。
あなたの心がつくる映画はどんなであろうか?

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