「悪霊喰 The Sin Eater」
賢者風の容貌をしたドミニクから物語は始まる。ドミニクはどんな人間だったか?
ドミニクは知識を追い求め、自分のためにアレックスを裏切ってしまう。教会からは破門され、異端とされるカロリング修道会に所属していた。ドミニクが死んだあとは、アレックスとトーマスしかいない小さな会。にも関わらず、アレックスはNYという大都会で堂々と司祭として活躍し、トーマスも簡単ではない悪霊払いを日常のように行っている。つまり二人ともかなり優秀な人間なのである。器があるということだ。
我々も異端の小さな会みたいなものだ。だからこそ本物が集まる。普通にしていればメインストリームを歩ける人間も、あえて求めて異端に居るのである。アレックスたちもそうである。真実は裏に隠されており、裏が中心で動いている。罪喰いも彼らと同じ異端の出身である。
ドミニクが死んだとき、アレックスのもとへわざわざドリスコル枢機卿が訪れている。次の法王と呼ばれる人間があえて訪れることの意味。またアレックスもそれほど驚いていない。普段からただの司祭では会えないような、それなりの人間に接しているからだ。そのアレックスは「見かけは若いが、魂は古い」と言われる。これはアレックスを演じたヒースレジャーもそうだった。
アレックスが悪魔払いをした女性マーラ。悪魔払い中にアレックスを傷つけてしまい精神病院に入院中であったが、アレックスの身に「死よりも悪いこと」が起こる予感がし、彼を助けようと病院を抜け出してきた。
彼女は因縁だろうか?トーマスはアレックスに散々警告した。最後は、
「名前を変えて一緒に逃げろ」と。トーマスのほうが世界がよく見えているのだ。マーラはアレックスを助けたかった。彼女は天使だった。しかし、天使では力が弱く、結局はより大きな力を持つものに利用されてしまう。アレックスとマーラは元々因縁ではない。マーラの悪魔払いをすることによって因縁付けとなったのだ。映画「コンスタンティン」でのイザベラとマーラは似ている。どちらも主人公にとって重要なキッカケを作り、自殺という大罪を犯している。それにも関わらず、どちらも最後は救われた。
アレックスが最後の秘跡をマーラに行った際、罪を食べたが、それは少なかった。逆に言えば、アレックスが悪魔払いをしても全部は取りきれなかったということだ。罪喰いが悪魔払いの上を行く証拠だ。
アレックスの人生を操り、因縁付けまで計画して行った罪喰いSin Eaterであるイーデンは何者だろうか?コンスタンティンでいえば、ルシファーのようにも見えるが、実はガブリエルである。ガブリエルはマモンを解き放とうとしてロンギヌスの槍を使おうとした。イーデンを殺すことのできる道具は何だったか?あれも槍なのだ。その槍を、イーデンは酔っぱらった際に紛失した。ちなみに一緒に飲んでいた相手は画家のカラヴァッジオ。イーデンの兄は建築の設計士だった。教会の建物に絵画、彫刻は欠かせない。アーティストにとってヴァチカンはお得意先だ。その後槍はヴァチカンに保管される。教会の策略である。
どんなに隙がないように見えても、イーデンの槍にあたるような弱点は必ず用意されている。我々はその人間にとっての槍が何なのか?の仮説を立てる。その視点を持つだけで実際槍を使わなくても意味が出てくるのだ。
「悪霊喰」では槍をトーマスが最後は持ち去り、「コンスタンティン」ではアンジェラに託される。コンスタンティンはその際興味深いことを言っている。
「ルールだ。隠すんだ」と。そして槍は何処かへと隠される。
普通に考えたら、それ使えばいいじゃんとなるが、特別な世界にも特別なルールがあるのだ。それが分らなければ、特別な世界で登場人物にはなれない。
ルールと言えば、ヴァチカンの表の世界では厳格すぎるほどにルールが守られている。そのせいで、ドミニクは破門された。イーデンの兄も教会から破門されていた。イーデンがSin Eaterになるキッカケとなったのも、因縁の兄の事故で最後の秘跡を受けられなかったからだ。それでSin Eaterが呼ばれた。
「神の家を建てさせておいて、神の家には入れないのか!」
普通は入れてやれよと思うのが人情だろう。では何故許されないのか?
イーデンの兄は何をしたか覚えているだろうか?
エジプトで神殿作りをしていたとき、瀕死のアラブ人に、本来は与えてはいけない聖水を与えたことで破門された。その場に聖水しか水は無く、死に行く者に最後の水をと情けをかけたのだが、そういった事情でも許されないほど厳格なのだ。それくらい厳しい世界なのである。勝手な判断で、世界の仕組みを理解していない人間が、何かをしてしまうと取り返しがつかないことがあるのだ。厳しくすることは、半端な行為による悪影響から守ろうとする愛でもあるのだ。ちなみに、兄の名はフィリップ。そう、「フィリップ、きみを愛してる」と同じだ。
アレックスは、教会の掟を破り、夜中にこっそりとドミニクを埋葬する。そのとき、二人のシスターが手伝っていたのを覚えているだろうか?彼女たちも天使で、二人は両翼の羽を象徴しているのだ。
そのシスターが去り、登場したのは子供の姿をした悪霊。ドミニクの家の前に居た二人の子供だ。子供の姿に化けられるのはかなり高位の悪霊だ。考えてみてほしい、子供に対しては人は無防備ではないだろうか?子供が仕掛けてきたら、あっという間に騙されてしまう。
その強力な悪霊に対して、アレックスはやられそうになる。しかし、ここでトーマスが登場だ。映画では、アレックスが悪魔を追い払った後、登場しているが、実はこれはトーマスが悪霊を払ったのである。映画の画面をよく見てほしい。後ろの方にトーマスが歩いているのが見える。悪霊払いの能力はアレックスよりトーマスの方が上なのだ。
映画では、悪霊が登場する前に天使は去っている。教会の掟を破って、有力な派閥でもない異端の会を支援するのは簡単ではない。それでも協力したシスターたち天使は、なぜ最後まで埋葬を手伝わずに去るのか?これは持ち場の厳守を表現している。
彼女たちは己の器と持ち場を理解しているからこそ、ここまでしか出来ないことを痛いほど理解しているのだ。情で考えたら、最後まで埋葬してあげたいのが人情だ
。しかしそこまでしていたら、悪霊の登場に出くわしてしまい大変なことになっただろう。
コンスタンティンのチャズを思い出してほしい。
自分の器を知らず向かった結果どうなったか?
一瞬で消されてしまった。
我々の世界でも似たようなことがつい最近あった。
天使も自己欺瞞に陥ったらやられてしまう。悪霊のほうがパワーあるのだ。
長くなったので続きは次回に。